日本で愛されている「子どもの歌」は、どのように作られたのでしょうか?同じ時代に一斉に作られたわけではなく、様々な時代の曲が歌い継がれてきているということは、想像に難くないと思います。
下の表を見ていただくとわかりますが、日本の歌であるにも関わらず、①江戸時代までの「わらべうた」以外は、西洋音楽の仕組みをベースに作られているといっても過言ではありません。また、②明治初期を見ていただくと、「ちょうちょう」や「むすんでひらいて」は、もともと外国の曲であったことがわかります。また、もう少し説明しますと、「むすんでひらいて」のメロディーは讃美歌として日本に入ってきましたが、元々はオペラの中の挿入曲であり、そこから様々な変遷を遂げて現在の姿になっています。
今日は、「むすんでひらいて」の成り立ちを、西洋音楽史とともに見ていきましょう!
時代 | 「子どもの歌」の概要 | 歌の例 |
---|---|---|
①江戸時代まで | 子どもたちの遊び歌として歌い継がれてきた「わらべうた」が歌われていた。 |
「かごめかごめ」 |
②明治初期 | 外国の民謡や讃美歌に日本語の歌詞を付けて歌う「翻訳唱歌」が歌われるようになる。 | 「ちょうちょう」(ドイツ民謡) 「むすんでひらいて」(讃美歌) |
③明治後期 | 西洋音楽を学んだ日本人による、日本独自の歌曲が生まれる。 また、文部省による音楽教科書に日本人作曲家による唱歌が掲載される。その中には昔ばなしの歌もあった。 |
「花」(作曲:滝廉太郎、作詞:武島羽衣) 「かたつむり」(文部省唱歌) 「浦島太郎」(尋常小学唱歌) |
④大正時代 | 文学的な詩による、格調高い文学童謡が次々と発表される。 | 「朧月夜」(作曲:岡野貞一、作詞:高野辰之) |
⑤昭和初期 | 素朴で親しみやすい童謡、年中行事に関連した童謡が発表される。 | 「赤とんぼ」(作曲:山田耕筰、作詞:三木露風) 「うれしいひなまつり」(作曲:河村光陽、作詞:サトウハチロー) |
⑥昭和初期~後期 | テレビやラジオを通して新しい童謡が次々と放送されて人気を集め、定番となる。 | 「犬のおまわりさん」(作曲:大中恩、作詞:佐藤義美) 「おもちゃのチャチャチャ」(作曲:越部信義、作詞:野坂昭如、補作詞:吉岡治) |
⑦平成以降 | 人気キャラクターや映画のテーマソングなども歌われるようになる。 | 「ミッキーマウスマーチ」(作詞・作曲:ジミー・ドッド、日本語詞:漣健児) 「崖の上のポニョ」(作曲:久石譲、作詞:近藤勝也、補作詞:宮崎駿) |
「むすんでひらいて」のメロディーを作曲したのは、思想家として有名なジャン・ジャック・ルソー(1712-1778)で、「村の占い師」というオペラの中のパントマイムの場面の音楽でした。
この音楽が作曲された1752年は、西洋音楽史では「古典派」と呼ばれ、音楽の聴き手が王侯貴族から民衆へ移り変わろうとしていた時代です。作曲技法も、それまでの「バロック音楽」と呼ばれる難しく複雑に発展してきた音楽から、民衆にわかりやすく「単純・明快・合理的」になりつつある時代でした。ハイドン(1732-1809)、モーツァルト(1756-1791)、ベートーヴェン(1770-1827)がその代表です。
1800年代になると、「古典派」をベースにしながらも作曲家の個性を前面に押し出す「ロマン派」が出てきて一般市民が感情移入しやすい音楽が増え、人々の生活に音楽が浸透していきました。この「ロマン派」には、ショパン(1810-1849)、リスト(1811-1886)、ブラームス(1833-1897)、その他、非常に多くの作曲家がいます。現在の日本人が「クラシック音楽」としてとらえている音楽は、この1700年~1800年代に作曲されたものが多いのではないでしょうか。
話を元に戻しますが、1752年にルソーの作曲したオペラ「村の占い師」のパントマイムのシーンの音楽は、「ルソーの新ロマンス」という題名でヨーロッパ中に広まっていきます。
1812年にはドイツ人のクラーマーによって「ルソーの夢」というピアノ曲に編曲され、そのメロディーがアメリカに渡り、讃美歌「グリーンヴィル」と、民謡「ローディーおばさんに教えなよ」として歌い継がれます。
その讃美歌が明治時代に日本に入ってきて翻訳され、「キミノミチビキ」として歌われました。
そして明治14年、平安時代の古今和歌集をベースに歌詞を付けた、「見渡せば」という唱歌になります。とても美しい唱歌ですが、歌詞があまりにも格調高く、定着はしませんでした。
その後、日清戦争の折に、このメロディーに「敵の大群、攻め落とせ」という歌詞を付けた軍歌、「進撃追撃」として広まります。この時に日本国民、とりわけ小学生に、このメロディーが浸透していったと言われています。
昭和22年には、小学1年生の音楽の教科書に「むすんでひらいて」という歌詞が付けられて掲載され、誰もが知る子どもの歌として、今日まで歌い継がれています。作詞者は不明ということですが、手遊びをしたり手拍子を打ったりしながら歌える、とても良い歌詞になっていますよね。
ここまで、「むすんでひらいて」の成り立ちを見てきました。誰もが聞き馴染んでいる曲にこのような歴史があったということを知って、面白いと感じた方も多いのではないでしょうか。
クラシック音楽の有名な曲にも、ひとつひとつ、背景が隠されています。それらを知ることによって、鑑賞する際の聴き入り方や感じ方に深みが増します。私は、音楽に関する授業の準備が面白くて仕方がありません。学生の皆さんの驚きや感動をどれだけ引き出すことができるか、毎回、ワクワクしています!
参照:Webサイト『世界の民謡・童謡』、『雑学カンパニー』