皆さん、黒柳徹子さんはご存知ですね。黒柳さんの幼少期を自伝的小説にまとめた『窓ぎわのトットちゃん』は、現在20以上の言語に翻訳されているほか、2023年には、アニメーションによる映画化もされました。
本の表紙を飾る、いわさきちひろ(1918-1974)の絵は、何とも温かみのあるもので、まるでこの本の為に描かれた作品ではないかと思うぐらいの存在感があります。
2024年は、いわさきちひろ没後50年、『窓ぎわのトットちゃん』の創刊から40年以上、NHKの「新プロジェクトX」という番組でも取り上げられ大きな反響を得ました。
「きみは、ほんとうは、いいこなんだよ」
落ち着きがなく、問題行動の多かったトットちゃんに、「きみは、ほんとうは、いいこなんだよ。」といつも声をかけて下さったのは、小林宗作(1893-1963)先生でした。トットちゃんが通った小学校「トモエ学園」(東京都)の創設者です。
トモエ学園に通う児童の中には障害のある子もいたそうですが、運動会などのプログラムには、必ずそのような子が脚光を浴びる活動が組み込まれていた、遠足もみんなで協力するのは当たり前だったと黒柳さんは言います。今でいうインクルーシブ教育です。(在りし日のトモエ学園:左 と 小林宗作氏:右 出典https://kotaenonai.org/blog/satolog/8069/)
「リトミック」
小林先生は若き日に音楽を学び教職に就きましたが、日本の教育に疑問を抱いてヨーロッパに留学、音楽教育「リトミック」に出会いました。リトミックは、様々な音楽を身体の動きで経験し、筋肉の運動から脳を刺激、心で感じた音楽を自分なりに表現するものです。現代の脳科学において、音楽と動きの影響が人間の営みに多くの効能をもたらしていることが報告されていますが、120年ほど前に生まれたこの音楽教育は、調和のとれた人間教育に寄与するものとして発展しました。
トモエ学園では、小林先生のピアノに合わせて行うリトミックの時間がありました。様々な音楽リズム活動のほかに、蝶々や鳥の様子などになって、フロアいっぱいに自由に表現するこども達の姿があったそうです。「こどもの気持ちを大切にする環境づくり」
トモエ学園には校舎もありましたが、電車の車両(現在、長野県安曇野ちひろ美術館に復元展示)が置かれ、教室として活用されました。近くのお寺に出かけては歴史を、キャラメルの数で算数を学ぶなど、こどもたちのキラキラした眼差しが目に浮かびます。
実験に興味を持った子どものためには、顕微鏡などが特別に準備されました。
こどもの興味や関心を大切にし、また、こどもが興味をもてるような様々な工夫やしかけが提供され、ワクワク満載の校風が「学校大好き」の子ども達を育てました。「自分らしく生きる」
トットちゃんの通った「トモエ学園」は、戦時下の小学校としては規格外でしたが、現代日本でも少数派であることは事実です。戦争という時代のなか疎開や、校舎が消失するなどし、わずかに9年間の開校でしたが、黒柳さんに代表される多くの文化人を育みました。
周りの大人たちの温かな空気に包まれ、自分のやりたいことに挑戦し経験を糧に成長するこどもたち、およそ100年前のトットちゃんの学校こそ、まちがいなく「こども主体」の教育が展開されていたといえるでしょう。※本日のテーマと関連する授業は、「子ども表現(音楽)Ⅰ・Ⅱ」「保育内容[表現]の指導法Ⅰ」です。