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使いやすさの裏側:自動販売機に見る人間中心デザイン

<執筆者プロフィール>

伊賀 彩子

宮崎学園短期大学 現代ビジネス科 教授

専門:ヒューマンインターフェースデザイン,生体情報計測,ロボット設計,ユーザビリティ評価

使いやすさの裏側:自動販売機に見る人間中心デザイン

 みなさんは、暑い日や寒い日など、自動販売機で何か飲み物を買ったことがあると思います。自動販売機は私たちの日常生活において便利な存在です。私たちは普段、何気なく自動販売機を利用していますが、そこにはいろいろな工夫があることをご存知ですか?

道具や機器の使い勝手に配慮してデザインすることを「人間中心デザイン」と呼びます。ここではどこにでもある自動販売機の使い勝手を例として、そこに人間中心デザインのどのような工夫がなされているのか紹介します。

■発見可能性
 ユーザーが機器の中のどこで何をしたらいいのかが見つけられるようになっていることを専門的には「発見可能性」と呼びます。例えば右の写真の自動販売機では、飲み物の価格が書かれたところは赤色と青色に塗り分けられていますね。これを見て、温かい飲み物を求めていたら赤いほうに、冷たい飲み物を求めていたら青いほうに瞬時に目を向けることができます。赤=熱い、青=冷たいと判断する、私たちが持つ慣習を利用したデザインになっています。
■アフォーダンス

 飲み物のすぐ下にはボタンがあります。ボタンはつるつるとしていて、指を置いてみたくなる感触です。適度な出っ張りもあり、これは押すものだと直感的に理解できます。これを見て、ちょっと引っ張ってみようとはあまり思わないと思います。このようにモノの素材やかたちなどによって「押せそうだ」「引っ張れそうだ」などと自然に感じ取れる要素を「アフォーダンス」と呼びます。私たちは普段の生活のなかで、環境から様々な判断をしていることに気づかされます。

■フィードバック

​ 選択したボタンを押し込むと、ピッと音がしてボタンが光ります。このように何らかの行動に反応が返ってくることを「フィードバック」と呼びます。音や光のフィードバックがデザインに組み込まれていることで、きちんと欲しい飲み物が選択されたことがわかります。もし何も変化がなければ、私たちは不安になって何度もボタンを連打するでしょう。

■制約

 最後に、コインをいれる投入口に目を向けてみましょう。多くのものは、縦や横に切り込みが入っていて、コイン以外のものを入れにくくなっていたり、切り込みに合わせてしかコインを入れられないようになっています。このようにユーザーが間違った操作をしないように、できることとできないことをデザインで伝えることを専門的には「制約」と呼びます。「〇〇しないでください」と書かれるより、最初からできないように工夫されているほうが気持ちがよいですね。

まとめ

 「人間中心デザイン」の考え方を提唱したのはドナルド・ノーマンという研究者です。こうした研究が広がることによって、私たちはパソコンやスマートフォンなどの情報機器を使うことができるようになったのです。

人間中心デザインを取り入れることで、道具や機器は誰にでも使いやすく、安全で、迷わずに操作できるようになります。みなさんも、身の回りの物がどんな工夫で使いやすくなっているか、ぜひ観察してみてください。

参考文献

ドナルド・ノーマン著, 岡本明, 安村通晃, 伊賀聡一郎, 野島久雄 訳:「誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論」, 新曜社 (2015)

※本日のテーマと関連する授業は、「実践ビジネス演習、情報クリエイティブ演習(来年度開講予定)」です。