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絵本の残酷な場面をどう捉えるか

~『三びきのこぶた』を通して~

<執筆者プロフィール>

髙妻 弘子

宮崎学園短期大学 保育科 准教授

専門:幼児保育

はじめに

 乳幼児期の言葉や情緒の発達を豊かに育むものの1つとして絵本があります。近年、“絵本の残酷さが子どもによくない”と結末をハッピーエンドに変化させた絵本も登場しています。皆さんは『三びきのこぶた』のお話をご存じですか?結末をどう思いますか?

ここでは、アンケート調査とディベートの結果からこの短大の学生が『三びきのこぶた』をどのように捉えているかご紹介したいと思います。

■アンケート結果

 『三びきのこぶた』を読んだことがあるかどうかの結果が【図1】です。【図2】はお話の結末を覚えているかどうかの調査です。

『三びきのこぶた』の印象は…

第1位〔教訓〕(18名)

「悪いことをすると罰があたる」、「失敗から学ぶ大切さ」、「努力は報われる」など。

第2位〔面白い絵本〕(17名)

「発想が面白い」、「いろんな家がでてくる」、「家が飛ぶ面白さ」など。

第3位〔末っ子の存在〕(15名)

「末っ子がしっかり者」、「頭がいい」などと称える内容。

次いで「助け合い、協力」「個性、それぞれのよさ」(12名)。兄弟愛やイラストの可愛さをあげた学生も10名程度いました。

 『三びきのこぶた』(原作)はおおかみがこぶたを食べようと藁の家、木の家を吹き飛ばし、レンガの家の煙突から侵入したところ、こぶたがおおかみを鍋で煮て食べたというお話です。   

その残酷さが子どもに悪影響だと結末を変えている絵本も店頭に並びますが、2021学生の印象のなかで「怖い、少し怖い」と答えたのは179名中、わずか4名でした。別途「おおかみが怖い」と答えた学生が4名、逆に「ぶたが怖い」と答えた学生が1名いました。残酷という言葉を使った学生は1名で、今回の結果では「怖い」と答えた学生よりも「面白い」「楽しい」と答えた学生の方がはるかに多いことがわかりました。

■ディベート結果

 そこで、学生に『三びきのこぶた』(原作)の読み聞かせを行い、こぶた、おおかみの立場に立ってそれぞれの気持ちをディベートしました。それをおおまかにまとめたのが【表1】です。

【表1】

こぶたの気持ち おおかみの気持ち

・おおかみに食べられたくない

・家を壊さないでほしい

・いつも恐怖

・他の獲物を探せばいいのに

・ここからいなくなってほしい

・一緒に遊びたいのかな

・しつこい

・おなかがすいてるんだ

・早く諦めればいいのに

・ぶたを食べないと死んでしまう

・弱肉強食は自然のこと

・好きで家を壊しているのではない

・俺の陣地に家を建てるな

 

 学生の感想としては、「お互いの立場に立ってみると一概に片方だけが悪者というわけではない」、「初めておおかみの立場を考えた」、「みんな生きていくためには必死なのだ」、「おおかみは悪者と思われて可哀想」などの意見がでました。

まとめ

 残酷な場面のある絵本が子どもに悪影響を及ぼすのだとしたら、幼少期に読んだ本の印象に「面白い」や「楽しい」と答えるでしょうか。現実ではないからこそ安心して物語の世界に入り込み、楽しむことができるのです。大人は内容を読み取ることを優先しがちですが子どもはそうではありません。背景や登場人物の言葉、表情、読んでくれる人の息づかいや臨場感など五感をフル活動させながら絵本と向き合っています。楽しいこと、嬉しいことばかりではなく、悲しみや失敗などを知って初めて本当の喜びがわかります。そう考えると大人目線で残酷だから…と判断し、その絵本との出会いをないものにしてしまうほうが子どもにとって大きなマイナスになるのではないかと考えます。

 教科書を読んで内容の理解ができない小学生が増えているそうです。幼少期からたくさんの絵本にふれ、想像する楽しさや面白さ、豊かなイメージ力を育んでほしいと願います。

※本日のテーマと関連する授業は、「子どもと言葉」「保育内容「言葉」の指導法」です。