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現代詩人のことば意識

~谷川俊太郎の「かっぱ」を読む~

<執筆者プロフィール>

川越 勇二

宮崎学園短期大学 現代ビジネス科 教授

専門:日本語表現

 谷川俊太郎という詩人がいます。ことばに関するさまざまな分野で活躍されており、アニメ「鉄腕アトム」の主題歌や、漫画『ピーナッツ』・絵本『スイミー』の翻訳などでも有名です。その谷川さんの詩集の一つに『ことばあそびうた』があります。その中から「かっぱ」という詩を読んでみましょう。

かっぱ

かっぱかっぱらった
かっぱらっぱかっぱらった
とってちってた

かっぱなっぱかった
かっぱなっぱいっぱかった
かってきってくった

教室でこの詩を配ると、あちこちから「かっぱか…っぱら…った…ん?」「かっぱら…っぱか…あれ?」という声が聞こえてきます。何も言わないのに、みんながこの詩を声に出して読みはじめる。この詩の「しかけ」にまんまとハマってしまいます。

この詩の「しかけ」とは、すべてひらがなで書かれていることで、意味の軽い混乱が起きることと、破裂音(無声音のp・t・k)の連なりが、心地よく楽しいリズムを生み出すことです。

この詩を漢字やカタカナも入れて表記すると、

 

河童かっぱらった 河童ラッパかっぱらった
トッテチッテタ

河童菜っ葉買った 河童菜っ葉一束買った
買って切って食った

 

となります。「トッテチッテタ」は、兵隊さんが吹くラッパの音です。

解釈はあくまで二の次で、この詩の眼目が、声に出して読むときの楽しさにあることは、言うまでもありません。谷川さんの詩集『ことばあそびうた』と続編『ことばあそびうた・また』には、子どもも大人も一緒になって楽しめる詩が、たくさんつまっています。

ところで谷川さんは、どんな思いでこれらの詩を書いたのか。その成立事情について、次のように述べています。

 

〇 私が私なりの《ことばあそびうた》をつくり始めたのは、私が自分というものの貧しさに比べて、言葉の世界がいかに奥深く豊かであるかということに気づいたからだろう。

 

〇 自分に言葉をひきつけるのではなくて、自分が言葉の中に歩み入ろう、むしろ自分を消してゆく方向に、言葉の富は表れてくるのではないか。

(谷川俊太郎『ことばを中心に』「ことばあそびの周辺」(草思社1985)

 

一見平易で軽やかに見える「ことばあそび」の詩は、谷川俊太郎という詩人の、そんなことばに対する意識から生まれたものです。ことばの「意味性」ばかりが重視される現代にあって、ことばが本来持っている「身体性」を回復させようとする試みと言えるかもしれません。

 

ことばを「道具」ととらえ、単なる伝達の手段としか見ないところから、現代ではさまざまなトラブルが起こっているように思えます。SNSによる誹謗中傷もその一つです。ことばの持つ限界を知り、それでもなお、ことばの豊かさを信じ、ことばによって世界とつながろうとする谷川さんの姿勢に、私たちも学ぶものがあるのではないでしょうか。

 

※本日のテーマと関連する授業は、「日本語表現Ⅰ」です。