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こどもや学生の精神的障害を哺乳動物の立場から考える

 近年、「インクルーシブ教育」の推進、「通級指導」の拡大など、精神障害、発達障害の子どもや学生を取り巻く教育環境が急速に変化しています。その背景には、国連が日本に対して、障害のある子どもと、障害のない子どもを分離する教育をやめるように勧告したことがあると思います。一方で、精神疾患の入院患者用ベッド数の多さが世界で際立って多い日本の考え方(精神疾患者を隔離する)は、未だ欧米とは大きく異なっているように思われます。今日は「なぜ精神障害(一部ASDを含み)を有する子どもたちが増え続けているのか?」について、意見を述べたいと思います。もちろん精神科医ではない素人の私が言える立場ではございませんが、私のこれまでの研究の一部(早期離乳と問題行動)からの意見です。


 子どもや学生に精神障害が増えている原因は、「単に調査が徹底してきただけで、実際には数が増えている訳ではない」と言う人もいるかもしれませんが、35年以上教育現場にいた私は、やはり実際に、そのような学生が増えているとの印象を強く持っています。NHKのBS放送で、「近年、脳の性差が無くなって、典型的な男の脳、典型的な女の脳の区別がつかず、90%近くがハイブリッド型(男女混合型)の脳になっている」とのことを視聴しました。もしかすると、子どもや学生に精神障害が増えている原因に、脳の変化(神経伝達物質関係、神経ネットワーク/シナプス形成関係などの変化)が増えているのではと思えてなりません。


 それでは、なぜ増えているのでしょうか?もちろん、遺伝素因を除いての話ですが、社会の変化(例えば、家族構成、近所付き合い、子ども同士の遊び時間不足、情報過多 他)を含め、集団欲が満たされない環境やコミュニュケーション不足が多くなっている、あるいは食べ物の変化(鉄、亜鉛不足、偏食 他)、スマホ社会(睡眠不足 他)、農薬(ネオニコ系?)や薬物・飲料水等、運動不足等、いくつもの要因があげられますが、どれが一義的原因とはいえないでしょう。その中で、私は特に、母親と幼児の触れ合い不足、「授乳行動(母親が幼児を抱いて母乳をやる行為)の重要性」について、見解を述べたいと思います。


 人間は哺乳動物であり、哺乳行為は、動物が長い進化の過程で得た戦略の一つです。この哺乳行為は、幼児の生命の維持および発育に極めて重要で、結果的には種の保存に繋がります。もし、この哺乳行為が破綻すれば哺乳動物の多くの種そのものが消滅するでしょう。動物の哺乳期間は種によって決まっており、これは極めて重要な事です。この哺乳期間に幼児の脳は急速に発達します。人間の脳は12歳までに完成するといわれますが、シナプス(神経同士の連絡)形成は1~2歳が最も盛んです。もし、新生児動物(実験動物としてマウスやラットを使用しましたが)を早いうちに母親から離し(離乳)、離乳食に換えると、体はそれほど変わらず成長して行きますが、成長した後に問題行動や不安行動が、通常の動物より多く現われます。つまり、哺乳期間は新生児・幼児の脳の正常な発達に重要な役割を果たす期間であり、哺乳行為が、正常な脳の発達に寄与していると推察されます。恐らく、母親が密に幼児と接する愛情行為(抱擁/スキンシップなど)、母乳を吸引する幼児の行動(吸乳)あるいは母乳の成分など、様々な要素がこの哺乳期間での幼児の脳の発達(正常なシナプス形成、神経ネットワーク形成、神経細胞の機能的成長など)に寄与しているのかもしれません。


 私は、何も人工哺乳を否定している訳ではありません。人工哺乳でも母親が十分な愛情を注げば問題ないと思っています。一方で、育児放棄や、幼児虐待は、取り返しのつかないシナプス形成不足や間違った神経ネットワーク形成を招く原因になり、様々な精神疾患を引き起こす原因になります。人間以外の哺乳動物には異常行動や問題行動を起こすものはあまり見受けられませんが、最近、人工哺乳する犬などに常同障害が増えているのも哺乳行為の重要性を示唆しているのかもしれませんね。