1.睡眠問題の背景
2.調査と結果
3.まとめ
1.睡眠問題の背景
睡眠に関する問題には2つの視点があります。ひとつは、健康からの視点です。国の健康政策の中で、睡眠は生活習慣として捉えられ、改善に計画的に取り組むことで国民の健康寿命の延伸が図られるとされています。二つ目は、経済的な視点です。日本経済新聞(2021)によると、寝不足によるビジネスパフォーマンス低下からの経済損失は「15兆円」とされています。言い換えれば、睡眠は個人の問題ではなく社会の損失を招くということです。よって、睡眠を理解しマネジメントできることは新しい可能性に繋がり、マネジメントできないということは、人生のチャンスを失うことに匹敵します。しかも、国民の5人に1人が何らかの睡眠に対する不満足を訴えており、「ぐっすり眠りたい」という多くの人が存在することから、マーケットとしての需要があり、睡眠関連ビジネスが成立していることを示唆します。
2.調査と結果
そこで、「睡眠不満足を感じる理由は何か」を問いとし、強い睡眠不満足を訴える4人の学生に対して実施したインタビュー調査を基に分析を試みました。その結果から作成した「睡眠不満足を生み出すプロセスモデル」を示します。なお、睡眠不満足への意識や対策には、個人差や独特な価値観があるため、本研究においては、睡眠不満足とは睡眠不足によるものと限らず、睡眠に満足していない感覚として定義しています。
睡眠不満足を生み出すプロセスモデル
図を見ると、学生達は「睡眠がとれない直接の原因」があったとしても、「睡眠リテラシー」を発動させ「入眠するための努力」を行っています。しかし、「入眠するための努力」は真逆の意味である「眠るための動画や音楽」と「静かな眠る準備」の概念で構成されており、これらは「理想の睡眠」を導くことには機能していません。次に、「理想の睡眠」が満たされていないにも関わらず、日中活動のために「頑張って起きる」とする概念が発動しています。これでは、せっかくの「健康リテラシー」も、睡眠問題解決のためには機能していないことが分かります。
3.まとめ
結論として、睡眠不満足を生み出す大きな要因は、良質の睡眠を得ようとする「睡眠リテラシー」が低く「理想の睡眠」を得ることに繋がらないことと健康的な日常生活を送ろうとする「健康リテラシー」との連動がないことです。これらが相互に機能すれば、「睡眠不満足」は解決され、日中パフォーマンスは飛躍的に向上するものと思われます。
このように、良質な睡眠を得るためのマネジメントはビジネススキルと捉えられます。また、睡眠をはじめとする健康(ヘルス)の知識は、大きなビジネスチャンスを掴むツールになるかもしれません。加えて、睡眠関連ビジネスを含むヘルス産業は、国の経済戦略として位置付けられている分野です。
《参考資料》
1.厚生労働省「e-ヘルスネット」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/policy/21_2nd.html、(最終閲覧日:2023.2.4).
2.株式会社矢野経済研究所(2021)「睡眠関連ビジネス市場の現状と将来展望」
https://www.yano.co.jp/market_reports/C63107400、(最終閲覧日:2023.2.4).
3.武村順子(2023)「睡眠不満足要因についての研究:M-GTA分析結果を基に」『教育研究第19号』宮崎学園短期大学pp.68-71.
4.日本経済新聞(2021)「寝不足日本が失う15兆円睡眠時間はOECD最下位」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75949090R20C21A9CT0000/、(最終閲覧日:2023.2.4).
※本日のテーマと関連する授業は、「看護概論」「健康と疾病」「医療・介護マネジメント」です。